白鳥の伝説あれこれーつがるみち73

宮城県の刈田郡や柴田郡はその信仰が特に強烈で、そのために仙台藩はこの地方で白鳥を捕獲することを固く禁じていた分けですが、戊辰戦争に勝利し柴田郡に進軍してきた薩長軍の兵士達が、白鳥を乱獲したために、それを見かねた柴田家の家来が白鳥を守ろうと兵士に向かって発砲するという事件(白鳥事件)が起こりました。結果、事件に関与した家来達は処刑され、その責任を取って柴田家当主は切腹したといわれています。

青森県もまた、「県の鳥」として白鳥が選ばれているように、その信仰や伝承が数多く残るところです。おいらせ町・間木堤 や、むつ市・大湊 をはじめ、たくさんの白鳥飛来地がありますが、中でも平内町小湊・浅所海岸 の白鳥は国の特別天然記念物にも指定されています。
昨年亡くなった民俗学者・谷川健一さんは、その著書『白鳥伝説』の中で次のような逸話を紹介しています。
【・・昔は平内の村人は白鳥の来訪する頃には、田んぼや海岸近くに腰を下ろして待った。白鳥が五羽六羽、五十羽百羽と飛んでくると「おひさしゅうがす」「今年も無事でなあ、待ってましたじゃあ」と声をあげ、眼をうるませる。・・白鳥が神の使者であることを知らないで、筒先を向ける他所の漁師があると、血相を変えて筒口に立ちふさがり、「あれを撃つならその前におれを撃ってくれろ」と叫んだ・・】
また「源義経=成吉思汗」説を取り上げた高木彬光さんの『成吉思汗の秘密』(この推理小説、若い頃夢中になって読みました)には、【・・ 義経は八戸にいたとき、地元の豪族の娘と深い仲となり、娘は義経が蝦夷地へ旅立った後に、鶴姫という姫を産んだ。やがて成長した姫は地元の阿部七郎という武士と恋仲になるが、阿部家は頼朝に仕える身で、義経の遺児と結ばれることは許されなかった。思い余った二人は、義経を慕って、蝦夷地への逃避行をはかったが、夏泊まで来た時、追っ手が迫り、二人は半島の絶壁で胸を刺し違えて、海に飛び込んだ。以来、浅所海岸には薄幸の娘の霊を慰めるために、義経の魂が乗り移った白鳥が、毎年飛来する。】という「椿山心中」の話が語られています。⇒夏泊半島付近
ー 前述した柴田郡の「白鳥事件」といい、この平内町に伝わる伝承といい、正に【・・かくも狂おしい思慕を人間から寄せられる対象は白鳥以外にはない。 ※谷川健一『白鳥伝説』 】というところでしょうか。

さて、藤崎町もまた、昔から白鳥の飛来地として有名な所で、町を流れる平川には、康平年間(1060年頃)または、正平年間(1356年頃)に万を超える白鳥が飛来し、安東氏の居城・藤崎城は「白鳥の館」と称されていたといわれています。
現在、「白鳥ふれあい広場」と名づけられた場所に白鳥が飛来するようになったのは昭和40年(1965年)頃からで、土手には白鳥観察施設「こ~やまるくん」 も建てられている他、川縁までゆるやかな階段が設置され、白鳥と間近で接することができるため、家族連れで賑わっています。
ー 谷川健一さんの『白鳥伝説』は、古代の畿内には、「饒速日命(ニギハヤヒ)」を祖とする物部氏が築いていた王国があり、やがて九州から押し寄せた勢力(神武東遷伝承に象徴される。谷川説では物部氏も神武以前に九州から東遷してきた氏族とされる。)によって、畿内を追われた物部一族は、蝦夷と共に東北各地に進出し、独自の文化を築くに至った・・とするものです(※内容が難しく、私もよく理解していませんが、東北の熱烈な白鳥信仰は自然発生的に生まれたというよりも、白鳥を「神」と崇めていた集団・物部氏及びその一族と結託した蝦夷によって広がったもので、根強い「白鳥信仰」、白鳥に関する伝説などを探ることによって、古代東北及び日本の歴史の深層がみえてくる・・ということだと思います)。
藤崎町は「前九年の役」で戦死した安倍貞任の遺児・高星丸(たかあきまる)が藤崎に落ち延び、やがて安東氏をおこし、藤崎城を築いて本拠地としたと伝えられる町ですが、伝承によると、この奥州安倍氏の祖は、物部一族と共に神武軍に頑強に抵抗した長髄彦(ながすねひこ)の兄弟「安日彦(あびひこ)」とされています。また、安倍貞任の弟・則任は「白鳥八郎」と称していたとされることや藤崎城が「白鳥の館」と呼ばれていたことなど、藤崎町は「白鳥」との深いつながりを感じさせる町です。
☆つがるみち☆
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